心臓の右心室から肺へ血液を送る血管を肺動脈といい、この血管の血圧が高くなってしまうことを肺高血圧症といいます。犬の肺高血圧症は、遺伝的あるいは先天的な心疾患のほか、様々な疾患の結果として生じる病態です。肺動脈の血圧上昇が続いて症状が進むと、息苦しい様子が見られたり咳が出たり、失神したりすることもあります。高齢になって病気が進んでから分かることも多く、元の原因となる疾患によってその後の経過も異なります。
VCA Hospitals によると、犬の肺高血圧症では、肺動脈や毛細血管の血圧が通常よりかなり高くなっているものと考えられています。基本的なメカニズムとして、動脈の許容量を超えた血液が心臓から肺に送られる肺循環血液量の増加や、血管の構造が変化して血管の内腔が狭くなってしまう、あるいは肺動脈に血栓などができてしまい詰まってしまっているなどで肺血管の抵抗性が上昇する、また僧帽弁閉鎖不全症などによって肺静脈がうっ血してしまうことによる影響を受けることなどが考えられています。こうしたことすべてにより、肺や体の他の部分に送られる血流の酸素化が低下します。
実際、様々な疾患が犬の肺の高血圧を引き起こす可能性があります。先天性心疾患など出生時からの発達障害を含むあらゆる種類の心臓疾患や、気管支炎や肺炎、ある種の腫瘍性疾患といった呼吸器系疾患は、犬の肺高血圧症を引き起こす可能性があります。そのほかにも一部の腎疾患 や、副腎皮質機能亢進症なども肺血栓塞栓症を起こす可能性が考えられ、この病気の原因となるとされています。フィラリア症も犬のこうした状態を引き起こす主な原因の一つで、これが定期的なフィラリア予防が重要といえる所以です。愛犬に万一こうした状態を示す徴候がみられる場合は、かかりつけの獣医師の診察を受け、必要な検査を受けることが重要です。
子犬は生後1年間、ワクチン接種のために複数回の通院が必要になる場合があります。成犬は一般的に年に1回の検診が効果的ですが、高齢犬や特別なケアが必要な犬は、より頻繁な検診が必要になる場合があります。
肺高血圧症は、実は目に見える症状が現れるしばらく前から始まっていた可能性があります。症状がみられたということは、実際に犬の心臓はしばらくの間、十分な酸素供給がないまま稼動していた可能性があると考えざるをえません。治療をしないままこの状態が長く続くと、残念ながら致死的な状況に至ると考えざるえません。犬が少しでも苦しそうな様子があることに気づいたら、速やかにかかりつけの獣医師の診察を受けることが重要です。Dogtime では、よくみられる症状として以下の内容を紹介しています。
動物病院に到着した時点で犬に息苦しい様子が見られた場合、まずはおそらく酸素治療が行われ、状況によっては入院が必要になるかもしれません。さらに、肺高血圧症の原因となっていると考えられる基礎疾患の治療とともに、状態に応じて肺の血管を拡張するための治療薬が投与されたり、肺に貯まった過剰な水分を取り除くための、利尿薬等も投与されることがあります。適切な診断のため、かかりつけの獣医師が専門医を紹介してくれる場合もあります。
薬剤による治療を続けると同時に、心臓や肺の状態をモニタリングするため、獣医師による定期的な経過観察と合わせてケアを続ける必要があります。経過によっては薬剤を変更することもあるでしょう。愛犬が利尿薬を継続的に使用している場合は、定期的に腎機能をモニタリングする必要もありますし、健康状態が低下したことで起こる感染症の治療のため、抗生剤が使用されることもあります。利尿薬を使用している場合、お家では排尿の量や頻度が高くなるので、排泄の失敗が起こりやすくなることも想定しておいてください。さらに、血尿など、尿路感染症の徴候にも注意する必要があります。できるだけ犬がストレスを感じない環境を整えて、身体活動を制限させることが大切です。かかりつけの獣医師に、どの程度まで運動を制限させる必要があるか確認しておきましょう。また、犬にとって暑すぎず寒すぎない適度な室温に管理し、煙草の煙をはじめとした肺を刺激し呼吸の弊害となるあらゆるものから犬を遠ざけることも非常に重要です。必要に応じて、かかりつけの獣医師は愛犬の病態に合わせた療法食 を推奨してくれるかもしれません。
残念ながら、犬の肺高血圧症は進行性の疾患で、その進行を完全に止めるような決まった特効薬があるわけではありません。個々の原因に応じた治療を、病気が進行する前の早期に始めることが望ましいとされています。治療は、動物の生活の質を改善することと、可能な限りそれを維持することを目的としている点を理解する必要があります。通常、この状態の予後については病状や基礎疾患によって様々であり、つまり、獣医師は犬が治療にどの程度反応するかを断言することはできないのです。この状態の診断後、数週間か数カ月しかもたない場合もあれば、治療によく反応し、自宅でしっかりとケアすることで数カ月、あるいは数年生存する場合も多くあります。ただ一つ確かなことは、治療しないと致死的であるということです。
肺高血圧症は深刻な疾患ですが、全く希望がないというものではありません。適切なケアにより、愛犬は疾患をかかえつつも日常生活を満喫し、長い間、幸せで快適に生きることができます。たくさんの愛情を注いであげることが、何よりも最高の治療となるでしょう。
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